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人には個性がありますので目に入る色もちがいますよね

先週末、村上春樹本人が生で話す機会に幸運にも意図せず聴衆として参加しました(*1)。突如現れて注目を集める男性が誰なんか分かっていないと思しき学生に「どなたですか?」と問われ「小説家の村上龍です」と名乗ったり、「カナダのスーパーマーケットで『お客様のご要望により当店ではクリスマスソングは流しません』って張り紙があったんですけど、日本にも導入してほしいですよね」と喋りだしたり、想像力について問われて「カキフライが好きなんでカキフライの話をします」と始めたりと、根っこが関西人やからか「笑い」を大事にした受け答えをなさる姿を拝見して、「村上春樹」に対して何となく抱いていたイメージが変わったんやけれど、そのイベントに参加した際、休憩時間のロビーのそこかしこで「初対面の文学好きの互いの知識の探りあい」が行われていて、拝聴しつつ脳内参加しておりましたところ、そん中で一人「それまだ追ってるんだ~、へえ~、俺もう卒業したなあ」的なトークで優位に立とうとするプレイヤーがいらっしゃって、我が身を振り返り反省しつつ、わたくし自身がこういうんを最初にやったんいつかなと思い返すとおそらく5歳前後のときで、私は幼稚園の同級生に対し「『おかあさんといっしょ』を見ているか」を問うては「ぼくはさいきんみてないな~」とか言いつつ3歳下の弟がいたこともあって毎日めっちゃ見とりました。
みなさまのうち大部分の方も人生のどの場面かで『おかあさんといっしょ』を見ていたに違いないですけれど、歌の「歌い手」に着目したのって、あの番組が原体験だったりしませんかね。そう、「うたのおにいさん・うたのおねえさん」ですよ。数多の歌を、朗々と聞かせてくださったやないですか。で、今から、うたのおにいさん・うたのおねえさんについて語る訳ですけれど、奥浩哉の漫画『GANTZ』で2番目に登場する異星人「田中星人」のモデルが初代うたのおにいさん・田中星児である(*2)と初見で気付いた方が少ないように、うたのおにいさん・うたのおねえさんのビジュアルイメージって何かぼや~っとしている方が多いんやないですか。番組のメインターゲットとして見ていた頃は2~4歳なんで大方映像記憶が鮮明ではないでしょうし、親として見ていたら子供の時分ほど真剣には見ていないでしょうし。

そんなうたのおにいさん・おねえさんですが、世間の耳目を集めた機会がここ20年ほどで少なくとも2回はありまして、1度目が1999年の『だんご3兄弟』(*3)関連です。『だんご3兄弟』は『おかあさんといっしょ』内で発表されたオリジナル曲で、人気に火がついてから発売されたCDは発売3日目で出荷枚数250万枚を超えてオリコン年間シングルチャート1位を記録する大ヒットを飛ばしましたのであなた様もご存知の曲でしょう。
『だんご3兄弟』はタンゴ調の童謡です。3兄弟の次男にツッコミどころのあるキャラ設定をした物語性のある歌詞に加え、耳に残りやすい曲調、またコーラス(リフレイン)が多用されていたことがヒットの理由でしょうか。筆者は3兄弟だったこともあり、当時3歳だった下の弟とよく一緒に歌ったことを覚えています。歌ってみると「だんご だんご」のように同じ単語を繰り返す箇所で唱和の喜びが感じられます。
この曲は映像を思い起こそうとすると、歌い手の速水けんたろう・茂森あゆみより、内野真澄が描いただんご3兄弟のキャラクターの方が浮かぶんやないでしょうか。ただ、その年の紅白歌合戦ではキャラクターによるアニメではなく、歌い手の速水けんたろう・茂森あゆみの二人がタンゴの衣装で登場して歌唱しました。間奏で二人がタンゴを踊る演出がされることで、この曲がタンゴ調であることを初めて意識した視聴者もいるかもしれません。そう、ダンスミュージックやったんですね『だんご3兄弟』は。

世間の話題をさらった2度目は2006年の『スプーのえかきうた』(*4)をめぐる騒動です。絵描き歌というと、いわゆる「絵心」のない人であっても一定水準の絵が描けるところに利がある歌で、知名度が高いんは、可愛いと言い切れるか微妙な棒立ちのアヒルを描く『(かわいい)コックさん』やと考えますが、歌いながら手を動かす必要があるため、歌の中でも特に歌い手の身体との関わりが深いものですよね。
そんな絵描き歌の中で、動画再生サイトの(削除されたものも含めた)累計再生数でいえば、断トツなんが前述の『スプーのえかきうた』です。この曲をめぐる有名な騒動について、蛇足やもですが軽く説明すると、2006年に放送された『おかあさんといっしょ』の番組内のコーナーで、うたのおねえさん・はいだしょうこが描いたスプーがあまりに特殊だったため、動画投稿サイトに違法アップロードされるやいなや、評判を呼んだというものです。

ここで描かれたスプーは輪郭、目、口、耳、帽子と一から十まで異様なんですが、特に印象的なんは目でしょう。互い違いに右上と左下を向いているのです。はいだしょうこは、引退後にタレントに転身して出演したバラエティ番組において描かされた絵でも、目の向きを互い違いに描いており、これがヤラセではないと仮定するなら、彼女にとってはこう見えている可能性もあります。実際、他の方に世界がどう見えているんかは、正確には分からないのですし、「村上春樹」しかり「うたのおにいさん・うたのおねえさん」しかり、聞いたことあるし知っていると考えていることこそ同じ像を共有できていない場合もあるんで、コミュニケーションの際は何事も自明視せずに「私はこう考えているんですけれど」から始めるなど像・イメージの具体化が必要ですよね。


*1:「ただようまなびや 文学の学校」。2015年11月27日、28日に福島県郡山市の郡山市民プラザで開かれた。村上春樹はシークレットゲストして登場。http://www.tadayoumanabiya.com/
*2:田中星人は、田中星児『ビューティフル・サンデー』(1975年)のジャケット写真と似た赤白の服を着て顔も多少似ている。台詞は「裕三君?」(田中星児とグッチ裕三は従兄弟)や、田中星児の曲の歌詞の一部。
*3:作詞:佐藤雅彦/内野真澄、作曲:内野真澄/堀江由朗
*4:作詞:西川つかさ、作曲:堀井勝美

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