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蠱惑の襞とハカマラヴァ

家ん中でのかくれんぼっちゅうとカーテンにくるまる幼児おるやないですか。足先見えとんのにうまく隠れた気ぃになって、あほやなあ、かあいらしなあ、て。あれって幼児も隠れられてないのんわかっとって、ただ単に、ふだん風にひらめいとるひだひだを、己の身体の一部としたい衝動からやってんちゃうやろか思いまして。こう、プリーツ? ドレープ? カーテンを巻き付けまして、自身の動きに応じてひだひだが揺れたりそれに触れたりするんに快を感じとるんですよおそらくどの幼児ももしかしたら過去のあなたも。ばっさばっさと、はためかせたい訳やないんです軽やかなふぁさっが欲しくて。ほいでカーテンを開いて静かな木漏れ日の、やさしさに 包まれたなら 目にうつる 全てのことは メッセージやね、って、あら短歌みたいんなったユーミン天才[1]。まあ幸せなんでカーテンふぁさらせる訳やないですか。場合によってはスカート状の衣服のひだひだをふぁさらせることもあるやもしれん。幼児は自由よ。ただ小さい頃は神さまがいて不思議に夢をかなえてくれたとしましても、ひだひだとの戯れは永久に続けられるもんではなくて、保護者等の絶対者が「それ、やめりーや」ちゅうて、ああこれ何かあかんことなん? じゃあやめよってみんな卒業していってまうんやけれど、いくつになってもひだひだを揺らしたいのやもしれんやないですか本心は。しかしもう現代日本で暮らす男児は揺らす機会がなくて。そりゃ女児はええよスカートあるけぇ。でも男児はスカートはかへんし、めくったら怒られる訳やないですか。じゃあスカートはいたらええやんっちゅう意見に対しては、こちとらひだひだHOLiCやから<必然>の奇跡(コラボレーション)[2]したいんや! って感じでね。何を言うとるんかっちゅうと、必然性がほしいと。理由もなく例外を気取りたくはないし怒られたくもないと。その辺は子供であっても皆同じで。そんな子細で年月を重ねるとともに衝動を忘却していくルートが大半ですが、現代日本男性にも、ひだひだを「必然性を伴い」自らの身でもって揺らす快感を取り戻す方法はありまして、そん中の一つである「袴」の魅力を、ここに開陳いたします。おとなになっても奇跡はおこるよ。

袴は日本において平安時代くらいから着用されてきたとされる衣服でして、日本史の中では隆盛を極めた時期も長いんやけれど、現代日本では洋服におされて、男性の不自然ではない日常的な着用例というと神職、噺家、武道家等の限られた層しかおらんくなってまいました。このうち武道家が一個人の参入障壁が低く、かつ、特に身体的な動きと不可分ですんで、今回はこちらを。
ご紹介する武道の一つ目は「弓道」です。電車内に布で巻いた棒状のエモノ持ち込んどる姿でおなじみ。弓道を何故例示したのかと言いますと、入門して即、袴を購入するからです。弓道で着用する袴は図1のような形状で、襠(まち)と呼ばれる中仕切りがある「馬乗袴」ちゅうタイプですね。
図1 弓道の袴
袴目当てでわたくしが入った弓道部はジャージで練習する風習やったんで首を長くして待った最初の大会当日、会場の県立武道館着いてすぐ先輩に射場に連れて行かれましたら他校の女子[3]が巻藁[4]しておって、それを遠目から指して先輩が「脇の辺りをよう見てみ」て厳かな雰囲気で仰るんで見とり稽古的な指示かと思いきや「ほれ、脇んとこ穴空いとるやろ? そやけ皆、中に肌着を着るんやけどたまに着てない子ぉおるんよ。そうゆう子のな、打起し[5]んときにな、ちらちら見えるんな、最高やぞ」としょうもないこと熱弁し出したんでわたくしは真顔で食い気味に「最高ですね!」て返して視線を……話がそれました。その後はわたくしも袴を頻繁に身に着けるようになるんやけれど、弓道の袴には、ひだ好き目線で見ると弱点がありまして、射法八節の一「足踏み」を終えたら弓を射る下半身は固定ですし、移動もしゃなりしゃなりなんで、ほぼ翻らんのですよ袴のひだひだが。まあ、そんな絶望を知ってもね、わたくしは正式な引退まで続けましたけれども。弓道自体は魅力ある武道ですし、袴をすぐ身に着けられる点もいいんは間違いないすよ。

二つ目は合気道で、これが今回の真打ちなんやけれど、合気道で男性が図2のような袴[6]を身につけるんは有段者になってからなんで、敷居は少し高いですけれども、これはいいものですよ。
図2 合気道の袴

合気道を始めると通常、最初に受け身を徹底的に仕込まれるんすわ怪我するけぇね。ほいで前方回転受け身、後方回転受け身ちゅうんがあるんやけれど、これの手本を袴つけた先輩に教わる際にもう袴がふぁっさんふぁっさんいうてね。わたくしもいつかはいわしたる! て気になりますよね。
受け身をある程度身に着けたら技の稽古に入るんやけれど、合気道の稽古は基本的に二人一組で取り(技をかける側)と受け(技をかけられる側)を交互に行うんで、ごく初期から袴がひらめく様を間近で凝視することになりまして、投げ技などしようもんなら、あの頃の主体的にふぁさっていた感覚がよみがえりますよ。
また、わたくしが所属していた大学の合気道部は、いかにも体育会的な風習から1年が先輩の脱いだ袴たたむっちゅうのがあったんやけれど、この下積みがわたくしは割に好きでして、袴と戯れながらも早く正確にたたむことに心血をそそいでいましたよね。

そうやって袴のひだひだの揺れるさまとともに合気道に勤しんでいたんやけれど、忘れ得ぬ思い出なんは自分が初段になって袴を手に入れたときより「合気落とし」を習った時でして。合気道にはいろいろな技があるんやけれど、袴に直接触る技は少なく、その少ないうちの一つが「合気落とし」ちゅう技なんすけど、この技は受け身が難しいんである程度の経験者同士でしか稽古できんくて、やからこそ特別感もありまして、とりあえず具体的に図示してみんとします。

合気落とし
脚の動きを分かりやすくするため、袴をはいていない図で示していますよ。

① 受け(技をかけられる側)の側面に入り込み、ぴったり密着する。
② 左太腿を相手の右太腿の裏側につけ、相手の右脚に体重をかけていく。相手の重心が左脚に移動していく。
③ 更に体重をかけていき重心が崩れるタイミングで、両手で相手の両脚を払う。

受けは後頭部から落ちるんで、受け身が未熟なうちは危険な技でもあるんやけど、慣れてくると技をかける方も受ける方も楽しくてね。そして何より袴のふぁさり具合がご機嫌な感じなんすよ映像でお見せできひんのが心苦しいですが。これ見たら誰しもふぁさりたくなるんやないかと。

一人の袴Loverとしまして、この「合気落とし」の稽古こそが、誰しもが抱えていたであろう幼少期からのひだひだに対するふぁっさー欲を満たす「必然性のある」身体の動きと言えるかと考えますわ。

 

1:作詞:荒井由美、作曲:荒井由美「やさしさに包まれたなら」(1974年)の歌詞を一部引用している。
2:西尾維新、CLAMP『×××HOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル』(講談社、2006年)発表時のキャッチコピー。 3:高校弓道は競技人口の少なさから、男女とも同日同会場で大会を行うことがある。
4:藁を束ねて米俵のような形状にして台に乗せたもの。弓道の稽古に使用する。また「-する」の形で動詞的に使う場合もある。
5:射法八節の四つめの動作。弓矢を持った両手を持ち上げる。射法八節は、以下の八動作からなる。一.足踏み(あしぶみ)、二.胴造り(どうづくり)、三.弓構え(ゆがまえ)、四.打起し(うちおこし)、五.引分け(ひきわけ)、六.会(かい)、七.離れ(はなれ)、八.残心(ざんしん)
6:外見は弓道の袴と似ている。腰板を支えるヘラの有無、腰板の硬さ、紐の長さが違う。

<参考文献>
難波知子『学校制服の文化史 日本近代における女子生徒服装の変遷』創元社、2012年
植芝守央『合気道上達BOOK』成美堂出版、2004年

文字数:3243

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