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肉を喰らえ!

ここで一つとっておきのウンチクを紹介しますと、マッコウクジラっちゅう歯がある動物では最も大きい生物がおるんやけど、そいつがダイオウイカを食べた後にするウンコは得も言われぬ豊かな芳匂がするんやって。などとTwitterにてtweetしたら何の因果かRT祭りになり「排泄物自体がいい匂いな訳ではなく、その中に含まれる胆石的なものが云々」といった教えてあげますよリプライが次々に来て、途中から雲行きが怪しくなりデマを広める人物ちゅう認定を受け個人情報が晒され、言うたら正義感による小悪党懲らしめといいますか、私刑的な状況に陥って、推移を観察していた人物にまとめを作られて、そのまとめを読んだ人らに冷笑tweetされるみたいなことあるやないですか。また、ガタガタと政治的な激動が続く昨今、様々な政治的見解の方から過激な発言が続々表出するんやけれども、どの陣営もツッコミどころのある科白を仰る方がどうしてもまじってしまいますんで、何だかんだ多いんは様子見層といいますか茶々を入れる立ち位置の方たちなんかな、そんな冷笑茶々組を目にする機会が増えてきたんやけれども、そんな方たちに他人に水を差すより肉を食べてみるんはどうかと本稿では提案いたします。

肉の話をするのに冒頭のツカミはどうなんか、ちゅう話ですが、アニメ版『ぼのぼの』ではクズリくんが道端で垂れる際に「にくにくにくにく」言うていて……いや、いま入ってきた情報によりますと「にこにこにこにこ」やったようです。マジか! すいません。いやまあ肉を食べているとわたくしなどはそれだけでにこにこ笑顔になるんやけれど、その感じを伝えるためにも、最近都内でぶいぶい言わせとる「いきなりステーキ」さん行ったときのことを実況してみんとします。まず、どの店舗でも日によって働く人員が違いますんで、外から眺めまして客捌きを確認、くるくると回転していたら入店、何かイラついてそうな客が多かったら諦めましょ。昼やったらワイルドステーキ300g 1択(量り売りは夜にした方がええです)で、米の量はお好みですがわたくしは食しませぬ。程なく肉が届きますがここでわーとか歓声あげながら写真撮影するんは愚の骨頂らしいですよ「肉は熱いうちが勝負だ」(※1)いう人もおりますし。写真撮影していると最も美味い時間帯を逃しますよ勿体ない! ま、わたくしは後で写真眺めて悦に入りたいんで毎回撮りますけれども。そんでステーキソースですがこれをだぼだぼかけると熱い鉄板が冷めますんで注意っちゅう店員の忠告を無視してですね、わたくしはレアーでいただきたいんで鉄板を少し冷まします。前半ソースのみ、中盤は+塩胡椒、後半+ワサビで味変しながらむぐむぐと顎に負荷をかけて食すと幸せ元気で午後もがんばろういう心持ちになります。店舗にもよりますが入店から退店まで15分ほどで済むこともあり時間のない現代人におすすめですよね。

そうそう、肉ばかり食べていると驚くことに、副次的に痩せてまうんすよ。肉には糖質がほとんど含まれとらんので、自然に糖質制限になるんすわ。糖質制限については、わたくしとても感慨を受けた本がありますんで、ちょっとテレビショッピング風に紹介してみますね。

升本:今回ご紹介するんはこちら『マンガで分かる肉体改造 糖質制限編』(※2)ということなんやけれども、どういったご内容で?

升本:はい、こちら、ダイエットの手法の一つ「糖質制限」について語られた書籍ですわ~。

升本:糖質制限? 最近よく聞きますね。本もたくさん出ているんやないですか?

升本:ふふふ。数多あるんすけど、こいつはまさに決・定・版というべき1冊なんすわ~。なんと、これ1冊で全員痩せます!

升本:全員!? すごい! と、わざとらしく驚きましたが、実はですね、わたくしもこれで、ものすっごい痩せたんすよね~。

升本:どれくらい痩せたんです?

升本:4か月で約20kg減ですわ。その後2か月くらいキープできてるんすよ~。

升本:仰天! 効果絶大ですね。でもー、その本、お高いんでしょう?

升本:そ・れ・が野口英世(※3)1人分でおつりが出ちゃうんです。

升本:ええー! そりゃお得ですわ~。

や、この手法は文字数食いますね。やめます。まあダイエット本なんて星の数ほどあるんやけれども、どうしてこの作品かといいますと、まず活字ではなくマンガなんで読みやすいちゅうのはありますわな。で、次が大事なんやけれども、ちゃんとマンガとして面白いんすよ、この作品。どうもね~、「マンガで分かる」系の書籍は乱発されとって駄本率が高いんすよね。マンガパートより活字パートの方が多くて本によっては台詞付きの一枚絵があるだけとかこんなん「マンガで分かる」は嘘ですやん系から、まあマンガで構成されとりますけど絵や筋運びの質が著しく低くて読むに堪えまへん系とか、「マンガで分かる」ちゅう文言が一種の地雷と化している向きはありますわな。でも『マンガで分かる肉体改造 糖質制限編』に関しては、青年誌で連載していた作品なもんで一定の質は担保されているといいますか、マンガが面白く、かつ痩せられます。いや、痩せられました。痩せたんすよ。(※4)

痩せて何がいいって自己肯定感は高まりますよね間違いなく。あとは見た目が変わるんで元からの知り合いには注目されること請け合いで承認欲求満たされます。痩せる情報を知りたい人はごまんといらっしゃいますんで、体験を文にしてみるんもいいやも。ダイエットは出版業界で恒久的に売れる分野として名を馳せているんで、うまくいけば本も出せちゃうやもしれんですよ。

まあ何だ。マッコウクジラがダイオウイカを食すことでええ匂いの石ができるように、何を食べるかによって変化が起こるとゆう訳です。みんなが肉食べていったら変わっていくんやないですかね色々。

最後に、わたくし一人の力では、みなさまに肉の魅力が伝えきれんかったかもしれんので、プロの文筆業の方々の肉の魅力を語る文を2×9=18段落ほど引用しますね。

 

私どもの世代は戦時中の飢えの年月を通過しているので、肉、というものに大げさなイメージを持ちすぎているかもしれない。私どもの子供の頃は、肉があればご馳走だった。どんなに手数をかけた、うまい野菜料理でも、肉の姿が見えないと、なんとなく貧相に思えたものだ。

色川武大「肉がなけりゃ」『色川武大 阿佐田哲也全集15』福武書店

すき焼きは好きですか? 僕はけっこう好きです。子どものころ「今日の夕御飯はすき焼きだよ」と言われると、とても嬉しかった。

村上春樹「すき焼きが好き」『村上ラジオ』新潮文庫

いったいに、ものを喰いに行く楽しみの大部分は、予想ないし想像というやつである。

ビフテキを喰おう、と思い立ったときから、食事はもう始まっているわけで、靴を穿いている間にも、胃の腑は、もう、準備運動を開始している。

神吉拓郎「肉それぞれの表情」『たべもの芳名録』文春文庫

豚料理のフルコースの前菜はやはり、生ハムであろう。それもスペインのハモン・セラーノがいい。熟成が進んだハムは水分が少なく、濃い臙脂色をしている。薄く切ると、鰹節の荒削りのようになり、噛むごとに口中にじんわりと旨味が染み出してくる。これをサイコロ状に切れば、歯応えも堪能できる。

島田雅彦「豚のフルコース」『食いものの恨み』講談社

ステーキ肉を、焼く前ほんのちょっと煙で燻す調理手順、これはやってみたいし食べてみたい。

早速牛肉を買いに行くことにした。

阿川弘之「ビフテキとカツレツ」『食味風々録』新潮文庫

銀のお盆に堆く積まれた生肉を見て騒ぎ、それを網にのせたときの「じゅっ」という音を聞いて騒ぎ、じりじりと焼けていく様を見て騒ぎ、口に入れればもちろん最高潮に騒ぐ。おいしいねえ。おいしい。すごい。最高。死にそう。死んだ! ……という具合。

井上荒野「夕食 肉は『血湧き肉踊らせつつ』」『作家の口福』朝日文庫

あ、これ裏返して、イイ感じ! どれどれ、ウマイ! これはいい肉だ。あー、口の中でジュワーンとくる。柔らかい。ああ、もうダメだ、スイマセーン! ライス下さい!

久住昌行「焼肉」『食い意地クン』新潮文庫

アグー豚、うまーい。TOKYO X、うまーい。三元豚、うまーい。

角田光代「ありが豚」『今日もごちそうさまでした』アスペクト

豚肉の厚みが歯に感じられ、次に弾力のある脂身がジワッとにじみ出て肉本体とからみあい、両者相俟って豚肉本来の味になったところへ、甘からの醤油ダレの味がわりこむ。

東海林さだお「豚肉生姜焼きの一途」『ナマズの丸かじり』文春文庫

ことロースト・ビーフに関する限り「血のしたたるような」というのが、唯一の正しい形容であることは確かであろう。

さよう。ロースト・ビーフとは血のしたたるべきものなのだ。

伊丹十三「血よ、したたれ」『女たちよ!』新潮文庫

肉は軟らかかった。ナイフがすっと通る。おそるおそる肉片を口に入れ、わたしは瞠目した。

ジューシーで、旨味が凝縮されていた。塩胡椒だけで全然いける。

馳星周「世界一のステーキ」『馳星周の喰人魂』中央公論新社

ビフテキの左端一センチぐらいの幅にズブリとナイフを入れた。その感触はもうほとんどそのまま味覚で、私は体がのけぞりそうになった。その切り取ったビフテキ部分を実際に口に含んだ後の口中粘膜の状態については、もはや各自想像するほかないだろう。

赤瀬川原平「ビフテキ委員会」『ごちそう探検隊』ちくま文庫

最初に箸を伸ばしたのは、ごま油と塩を振ったレバ刺し。口に含むと、とろんと甘い。臭みもまるでない。心臓はコリッと軽快な歯ごたえ。鹿肉のユッケをさくっと噛めば、たちまち独特の甘みが豊かに満ちる。さらには生姜醤油で味わう鹿のフィレの刺身の、あっさり上品なこと。どれもこれも質は極上、鮮度も抜群。

平松洋子「獣の味」『おとなの味』新潮文庫

(※5)

とりあえず肉だ。肉を食っていれば、人間は幸せになれるぜ、(中略)若造でも老人でも、人生に悩みは尽きないが、しかしおいしい肉を食えばそんな悩みはすべて解決するのさ

西尾維新『花物語』講談社

喉、鳴りました? わたくしはもう、辛坊たまらんので、今から肉、食べに行きます。

 

※1:西尾維新『花物語』p109、講談社、2011年

※2:原作・ゆうきゆう、作画・ソウ、少年画報社、2015年

※3:千円札に描かれた人。あまり関係ないがWikipedia「野口英世」の項にも掲載されている野口英世記念館所蔵の野口英世が母シカと共に写る写真の全体図で左端に移る女性・宮原八重子(結婚後は升本八重子)は筆者の曾祖母にあたる。

※4:痩せた経緯については、以前に文章を書きました。→升本「わたくしのしくじり」:http://school.genron.co.jp/critics-papers/paper-2015/%e3%82%8f%e3%81%9f%e3%81%8f%e3%81%97%e3%81%ae%e3%81%97%e3%81%8f%e3%81%98%e3%82%8a/

※5:たくさんの本を調べたように見えるかもしれませんが『おいしい文藝 ぷくぷく、お肉』(河出書房新社、2014年)からの孫引きが主です。申し訳ありません。

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