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わたくしのしくじり

岡田は後輩やけど院卒やから同い年やし、野球・競馬・ゲームと話題も合うし、「俺は升本さんしか(職場で仲良い人)いないからなあ」なんて人によっては告白と捉えますよ的な台詞を平気で口にしてくるしで、言うたら幼馴染ポジションというか攻略難易度は相当低いんじゃなかろうか。昼飯食ったりキャッチボールしたりと接触回数も多いので順当にいけばこのルートに進むんやろうとほくそ笑んだのは半年ほど前のわたくし。きっかけは「カソウスキの行方」(※1)の再読やったんですけど、カソウスキは仮想好きで、同僚を好きになったと仮定して日々を過ごすことで人生に彩りが加われば、みたいな話で、これを自分もやったろと思うて、それには同僚から相手を探すことになるんやけど、普通に行うと不倫の二文字がちらつくんで相手を同性(男)とした訳です。

前述の岡田は既婚でして、わたくしも既婚なんで、まあ仲良くすることにリスクがないちゅうか、こないだも二人ランチ中に岡田が何たら言うアニメのヒロインが何故好きかという話をしていて、それが先日の研修で私が受けた他己評価と合致している部分がありまして、こいつまた遠回しな好きアピール始めよったわなんて、心中にたにたしていた次第で。

恋愛って楽しいし幸福感半端ないですから恋愛してるときの気分を味わいたいと思うんは快楽を得たいちゅう人として自然な欲求なんすよ。みんな恋愛したらいい。愛は地球を救う。うるせーばーか、てめえは妻と恋愛しとけって話ですけど「恋ははじまるまでがいちばんいい」(※2)という言葉もあります通り、恋愛って成就するまでが最高にハッピーやからあのときの思いをもう一度! と思うと新規の機会を探してしまう訳ですよ。

私は入社以来、新入社員補正があった序盤以外は、職場の女性社員と仕事のこと以外を話す機会が少なく、そして今の職場は女性社員の方が多いんやけど、打ち合わせのない日なんか「おはようございます」、「お疲れ様です」、「お先に失礼します」以外口にしない日もあるなどして、ややもするとわたくしは職場では無口やと思われていたかもしれんです。そんな状況で仮に女性社員のどなたかにちらとでも気があるととられかねん素振りを見せようものなら裏で何言われるかわからんですし、そもそも不倫ってあかんことやないですか。なんで男性で脳内恋愛の相手を探すんは自然なことと言えます。そいで年齢がある程度近くて接する時間の長い男性社員ってわたくしの勤務先には3人しかおらんくて、年上、同い年、年下で一人ずつ。幸いにも3人とも私好みの高身長かつ細身の黒髪メガネ男子という外見(※3)で、これに気付いた時は私のためにお膳が立てられていたかのように感じましたね実際。以来、この3人のうち、わたくしが誰を選ぶのかというのを神の視点で眺めながら日常を過ごしてみるとこれが大層愉快である、と。

3歳下の北江(東大卒・帰国子女)は、接する機会は3人の中でいちばん少ないんやけど急接近イベントが多くてですね、二人で出張に行った先で、深夜に私の部屋から中々帰ろうとせんかったり、打ち上げで北江が泥酔して家の近い私が彼の自宅までタクシーで同乗することになり、カギを開けてあげた私を巻き込んで玄関で倒れこんだり等、私と一線越えたいと思とるんやろかと疑いたくなる事象がちらほらあるんすわ。玄関倒れこみのときは、その姿を北江の彼女っぽい人物に室内から見られ、「酔って一人で帰れなくなっていたので、ここまで送ってきて……」などと言い訳しながら慌てて帰るというどきどきもありましてね。

3人目の赤松先輩(理系・院卒)は、姉がモデルをやっていて本人もグッドルッキングガイな青春時代のわたくしにとっては仮想的やったような部類の人種なんですけど、まあとにかくパーソナルスペースが近い近い。私に仕事を教える際など、よくPCの画面前にぐいと身を乗り出してくる(「パソぐい」と呼んでいる)んすわ。資料を渡してくるときに手が触れることも多いし、こないだなんぞトイレの鏡の前で何度もネクタイを結びなおしていたので、何の気なしに「ネクタイ結ぶの苦手なんですね」と声をかけたら、無表情で「升本やってくれよ」と首を近づけてきよってね、プロポーズでしょうかね。

こうなってくると何かもう3人とも俺のことを好きなんはいよいよ間違いなく、そろそろ誰かを選ばなきゃな、でもしばらくはハーレム状態でいたいんや等の葛藤に苛まれていたある日、いつものように意識を中空に飛ばして現状を見下ろした場合、わたくしの見た目だけが麗しくないことに気付いたんすわ、一人だけ太りすぎておりまして。そんでまあ、何ちゅうか絵面をよくしたいと思いまして、とりあえず4か月で16~17kgほど痩せました。これで少しはマシになりましたかね。

といった顛末でわたくしは短期間でデブからある程度一般的な体型に至った訳なんですけれど前述の話は全て私の脳内でのみ展開されており、特に言葉で表明しておりませんでしたので、他の人からすると「ちょっと見ん間に升本えらい痩せおったぞ何でじゃ」という感じらしくて、職場の多数の方に病気じゃないかと心配されまして。いちいち説明もできひんかったんで「太り過ぎてたんで痩せようと思いまして」、「健康診断の結果はよくなりまして」といった回答をするんやけど、その後も多少は雑談が続くじゃないですか。このコミュニケーション量の増大を私はダイエット成功バブルと名付けたんですけど、職場の方々との会話量は確実に増えまして、それが仕事を進めるうえでプラスに働くこともあり、減量して体力の消費が減ったのか疲れにくくもなって当初の目的とは関係ないんやけどよかったことが色々発生いたしました。

という話を最近転職していった北江に会った際にしたところ、その後、北江から「彼女が升本さんの話に興味持ってる」とか連絡がきて北江の彼女さんと会うことになってBLに理解がある人と認識されたんか本の貸し借りとか始まってしまったんやけれど、これって大学時代の恋愛の始まりのときの感じに近いかもしれんとか思て、恋愛の気分を味わいたい→脳内で同性を相手に仮想恋愛する、というアプローチは最近進展もなく、失敗というか間違っていたのかもしれんのですけど、何故か味わいたかった感覚は味わえている気いします現在。不倫はしませんけど。

こないだ岡田とフェスに行きまして、「フェスにて演奏会場や時間帯を間違えて偶然聞いたバンドを、元々好きだったバンドより好きになってまう」ちゅう話を書こうと思うて岡田の話を書き始めたんやけれど書き出しの部分を膨らませていたら全く違う内容になってしまいました。結果的に元々書こうと思っていた文章より、他の方が書く課題文とかけ離れた内容になったと思うので、これはしくじりの効用ですかね。

 

※1:短編・中編小説が3編収録されている『カソウスキの行方』(津村記久子、講談社、2008年)の表題作。初出は『群像』2007年9月号。第138回芥川賞候補作。

※2:「恋は始まるまでがいちばんいい~有川浩論~」(北上次郎、『野性時代』Vol.38、2006年)より。『クジラの彼』(有川浩、角川書店、2007年)のハードカバー版の帯にも使用されたコピー。

※3:批評再生塾の受講生にも細身の黒髪メガネ男子がいらっしゃいますね。

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