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「シャッ」

道を歩いていると車体をLEDで輝かせた車が大音量のクラブミュージックを響かせて走っている。歌詞まで聞き取れているが、いまひとつなんと言っているかわからない。繰り返し聞こえる単語は外国人の野太い声でこう繰り返す。「ショッショッショッショッショッ!ショッショッショッショッショッ!Every Body!!」

これはLMFAOというアメリカのヒップホップデュオの『Shots』という曲である。先ほどの印象的なフレーズはタイトルどおり「shots=ショット/ショッツ=テキーラなどの酒、もしくはその単位」という単語を繰り返している。この『Shots』は若者を中心に支持されるクラブミュージックであり、クラブやパーティーを盛り上げるための曲であるが、ここでこの曲の歌詞の一部を日本語訳とともに引用したい。

 

If you not drunk, ladies and gentlemen

Get ready to get fucked up

Let’s do it, ha, ha

(みんな酔っ払ってないなら酔う準備しとけ!行くぞ!)

All of the alcoholics Where you at?

Let’s go!

(アル中野郎どもはどこだ?行くぞ!)

When I walk in the club 

All eyes on me

(クラブに行くとみんな俺を見てるぜ)

(略)

We like Cîroc  We love Patrón 

(ウィスキーとテキーラを愛してるぜ!)

We came to party rock

Everybody, it’s on! 

(パーティーを盛り上げに来たぜ!みんな行くぞ!)

Shots, shots, shots, shots,

Shots, shots, shots, shots,

Shots, shots, shots, shots,

Shots, shots, shots, shots

Everybody! [x2]

 

まさにパーティーソングといった歌詞であり、要約すれば「お前ら盛り上がれ!酒を飲め!」ということだ。PVを見るとこの歌の内容がよく分かる。見るからにヒップホッパーというようなダボダボのズボンにキャップと派手なサングラス、ギラギラしたアクセサリーを身につけた人々がプールサイドで水着の美女や若者たちとテキーラボトル片手に踊り騒いでいるというもの。内容をそのまま表しているようなPVだ。

 

ここでもう一つ、この曲のカバーともいえる曲を紹介したい。それはBUBBLE-B feat. Enjo-Gの『Enjo-Gのシャッシャッシャ』という曲である。このアーティストは、「トラックメイカーのBUBBLE-BとMCのEnjo-Gによる汚声グルーヴユニット」を名乗っており、CMやテレビのアイキャッチなどの日常的な音などをサンプリングするスタイルで音楽を製作している。『Enjo-Gのシャッシャッシャ』は先ほどの『Shots』をほぼカバーしている曲なのだが、歌詞の内容は元になった『Shots』とは大きく異なる。ここで歌詞を一部引用する。

 

俺は悪い だからジーパンが太い

俺は悪い だからジーパンが太い

俺の仲間は全員ギャング

俺の仲間は全員ギャング

カモン!

シャッシャッシャッシャッシャッ

シャッシャッシャッシャッシャッ

シャッシャッシャッシャッシャッシャッ

エヴィバーディー[x2]

俺が怖いか 殴るぞ

俺が怖いか 殴るぞ

(略)

俺最高 俺最高

俺ヤバい 俺ヤバい

オーケー?

 

 

曲調自体はほとんど同じものなのだが、歌詞内容がほとんど違っている。先ほどの『Shots』はパーティーチューンながら一応歌詞に一貫した内容があった。それに対してこちらの歌詞にはほとんど内容がない。さらにPVではバックに80年代の南国リゾートのイメージビデオのようなものが流され、ヒップホッパー風の格好に身を包んだEnjo-Gであろう人物が歌を歌っている。この『Enjo-Gのシャッシャッシャ』は『Shots』のカバーやアレンジというにはあまりに不真面目であり、どちらかといえばジョークソングのようなものだ。

『Shots』に対する『Enjo-Gのシャッシャッシャ』は、例えば替え歌のような関係でもなく、単にアレンジしただけのものでもない。いうなれば原曲を「解釈のもとにあえて間違えて作った」カバーソングなのである。それはどういうことか。

Enjyo-Gの歌詞(リリック)は『Shots』の翻訳された歌詞とは似ても似つかない内容である。『Shots』は前述したようにパーティーを盛り上げる、主に飲酒にまつわる歌詞だ。一方『Enjo-Gのシャッシャッシャ』は自らをギャングに見立て、自分の素行を歌っているものだ。しかしそれはギャングの行為を声高に歌い上げる意図ではない。この歌詞の意図は「『Shots』を歌っている人たちはこんな感じだろう」「たぶんこんな意味だろう」というイメージによる作詞なのだ。もっと言えば冒頭で述べたような、この楽曲を聴いている人々が受容している「感覚」のステレオタイプを勝手なイメージで歌い上げたものなのだ。いわば日本人によるアメリカクラブミュージックの意図的な誤訳である。よってそこには正しく原曲の言語的意図を汲んで翻訳することには大きな価値がない。前述した歌詞の翻訳を同じメロディーに乗せて歌っても、受け手にとって意味はないのである。最も典型的な部分がサビだ。二曲ともサビは同一のメロディーであり、英語をカタカナにしただけのものになっているが、サビである「Shots」を繰り返す部分の意味はそもそもないも同様で、「Shots」を「シャッ」に変えたところで大きな違いはない。もともとその意味性は一種の「ノリの良さ」に集約されているのであって、言語を直接的に日本語に置き換えても仕方がないのだ。PVも同様の趣向だ。バカンスを背景にガラの悪そうな人物が何かを歌っている。そこは共通のコンセプトであって、イメージを伝えるという意味では間違っていない。このように『Enjyo-Gのシャッシャッシャ』は原曲を意図的に誤訳することによって“正しくないのに間違っていない”アレンジとなっているのだ。

この“正しくないのに間違っていない”ということ。これこそが誤読の効用ではないだろうか。

 

このことと逆の例として、アヴリル・ラヴィーンの『Girlfriend』をあげたい。この曲は先ほどと違い、アヴリル本人が日本語版を製作している。この曲は世界的ヒットとなったために、本人によって日本を始めとした8カ国語で歌われている。それぞれサビのみの翻訳であり、世界ツアーのためサービスとして作られたであろうことが予想されるが、お世辞にもできのいいものとは言えない。ひとまず、その英語の歌詞と日本歌詞を並べてみたい。

 

英語バージョン

Hey! Hey! You! You! I don’t like your girlfriend

No way! No way! I think you need a new one

Hey! Hey! You! You! I could be your girlfriend

Hey! Hey! You! You! I know that you like me

No way! No way! No, it’s not a secret

Hey! Hey! You! You! I want to be your girlfriend

 

日本語バージョン

Hey! Hey! あの子はいまいち

ねえねえ! 新しい恋が必要

Hey! Hey! あたしなんていいんじゃない

Hey! Hey! あたしには分かってる

No way! No way! 秘密じゃない

Hey! Hey! あたしがなってあげる

 

 

この曲は先ほどの例とは違い、ほぼ歌詞の直訳でありさらには本人が歌っている正当な日本版である。しかし、この日本語によって曲の持つイメージは変容している。『Girlfriend』は日本でもヒットしたが、少なくとも日本では歌詞に共感して人気を博していた訳ではないだろう。この曲が人気であった理由は、曲のアップテンポなノリの良さであり、もっと言えばアヴリルの持つイメージ、クールさやアメリカンガーリーポップな要素である。しかし、この直訳ではそのクールさはアヴリル本人のたどたどしい日本語によって消え失せてしまっている。この場合この日本語バージョンは、“正しいのに間違っている”アレンジと言えるのではないだろうか。

 

正しい日本語にしたにもかかわらず、そのイメージをうまく翻訳しきれていない『Girlfriend』とは逆に、『Enjyo-Gのシャッシャッシャ』は全く正しくない翻訳=誤訳によって、アメリカのクラブミュージックが持つステレオタイプなイメージを翻訳することに成功しているのだ。感覚の翻訳にとどまらず、もはや誤読によって対象の本質すらより強調しているではないか。これは言わば一種のカリカチュアとも言えるだろう。特徴を際立たせたカリカチュアの似顔絵は本人を写実的に表していないにもかかわらず、そっくりだと思わせる。逆にスーパーリアリズムを用いて写真のように描かれた似顔絵でも、その人のイメージや、もっといえば本質のようなものは映し出しきれない。イメージや感覚、ニュアンスといった個々人の文化や教養に左右されるものを、違うものに置き換えたり、あえてひどく強調することで伝えることができる。このことは、物事を解釈した上で意図的に間違えることによって生まれる新たな技法だろう。間違えることによって逆に物事の本質すら暴くきっかけになることがあるのだ。

文字数:3826

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