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「ネットはオールドメディアが圧勝」。

この一文が1年前ネット上で話題になった。多くの人は何を言っているんだと思ったことだろう。現在の映像メディア環境は、昭和の時代とは大きく変わった。かつては、情報を発信することができたのはテレビや新聞といったマスコミたちだけだった。現在は、インターネットの普及により、誰もが簡単に情報を発信できるようになった。テレビや新聞が果たしてきた役割はインターネットの登場により終わった。それは若い人々がテレビ、新聞を見なくなり、動画共有サイト、SNSやキュレーションアプリを使っているという事実を鑑みれば、上記の発言は何とも時代錯誤に見える。

しかしこれが、日本のインターネット文化を象徴する動画共有サイト、ニコニコ動画を生み出した、現KADOKAWA・DWANGO代表取締役社長、川上量生の発言となると、話は変わってくる。先の一文の見出し記事の中で次のように発言している。

「結局、コンテンツを自ら作っているところが勝つと思いますよ。みなさん、勘違いしていますよ。本当に勘違いしている。新興のネットメディア対オールドメディアの勝負は、実のところ、オールドメディアの圧勝です。それを、わかっていない。」(ダイヤモンドオンライン2014年6月25日)

この言葉をオールドメディアに対するリップサービスだと言って切り捨てることは容易い。しかし、私たちがネットを代表するものを語る際、ニコニコ動画、2chといったプラットフォームを語ることはできるが、コンテンツを思い浮かべることは難しい。私たちは新しい情報環境を手にすることができたが、新しい創作物を生み出すには至っていない。では、どのようにすれば新しい創作物を生み出すことをできるのだろうか。

残念ながら、このような大きな問いに明示的な答えをこの小論で出すことはできない。そこでここでは映画というコンテンツを通して新しい視点を提示することにしたい。

現在注目を浴びている映画監督の一人に園子温がいる。園子温はインディーズの映画監督として注目され、メジャーに移ったあと、数々の映画賞を撮りまたその作品の過激さから度々世間から問題視された映画監督である。また、実際に起こった事件をモチーフにして映画をつくっている監督でもある。『恋の罪』では東電OL殺人事件を、『冷たい熱帯魚』埼玉愛犬家連続殺人事件を題材に、過剰な暴力や性といったものが見事に描かれている。しかしそんな園子温も2012年に公開された『希望の国』ではうまく現実を映画に昇華することができていない。この作品は福島第一原発事故を題材にしている。映画では長島県という架空の県で2世帯同居している家族が原発事故に合い、変化していく様子を描いている。痴呆症気味の妻を抱えた夫が避難区域にある家から離れられない様子や息子夫婦が家から避難するも子供ができたことをきっかけに放射能恐怖症になる妻と夫が描かれている。この映画では過剰性といったものは感じられない。なぜなら私たちはこの映画よりも強烈な映像を現実に見てしまったからだ。

園子温は原発を題材にした自主制作の映画をつくっている。まだこの映画は公開されていないが、高円寺にあるアーティスト集団Chim↑Pomが運営するアーティスト・ラン・ギャラリー「ガーター(Garter)」で映像インスタレーションとして一部を見ることができる。この『ひそひそ星』という映画は原発事故後の風景を使い、ひそひそ星という架空の星を舞台とした映画だ。そこでは登場人物たちがひそひそと話す不思議な空間で、様々な環境音が響く映画となっている。この自主制作映画について園子温は、雑誌のインタビューで次のように述べている。

「足立正生監督の『略称 連続射殺魔』(一九六九年に製作され、公開されなかった映画連続射殺魔が眺めた風景をただ撮影するだけという手法が用いられた。)ってあったじゃないですか。とりあえずそれを模してやっているんです。」(Voice 2012 10月号)

『略称 連続射殺魔』についてもう少し詳細を付け加えると1968年に起きた連続射殺事件の犯人である永山則夫の出生から逮捕までをその風景だけを撮ったという異色の映画だ。この映画は観客の想像力によって、犯人を思い描くようになっている。つまり園がしようとしているのは今まで過剰さによって人が目を背けたくなるような現実を直視させる映画から、観客の想像力に訴えかける映画となっている。

映画的なものとは迫力ある映像や音響で観客を圧倒するものであったが、震災後の今求められているのは観客の想像を喚起するための映画的でない単調な映像ともの静かな映画ではないだろうか。過剰な現実に対抗するための想像力を鍛えること。

ネットでは何かと過剰なものが耳目を集め、耳目を集めるためにさらに過剰なものがという悪循環に陥っている。そこから抜け出すには過剰さではなく、想像力を働かせること。そこには新しいコンテンツが生まれる素地がつくられるはずだ。

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