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Portisheadは死を囁く。 

朝の白い闇。Portisheadの『Mourning Air』は環境音のように、または内的な独白のように、無臭の憂鬱を漂わせる。そこかしこに死が芽吹く。陰鬱未満の倦怠さ……まだるっこいメランコリー。目覚めの午後、または目覚めることのない午後。余生の午後。

鳴り響くのは誰、私なのか。それは果たして彼女なのか。誰、痛み。視線。だが、それは……。彼女はベス、女性ボーカル。彼女の特質は囁くような歌声、死を連想させる息。空っぽの魂、他者性のない…存在感の欠落した幽霊。……彼女の歌声を聴いて自殺した者はきっと少なからずいるだろう。

プレイ・トラック。

Part A (25秒間)
「Did I…」彼女が囁く、耳元まで接近する。ゆっくりと鐘が鳴るようにシンセサイザーが六回響く、滲む。深々と落ちていく。(この時点で世界は既に削ぎ落ちている)。「…see a moment with you」ゆっくりとシンセサイザーが四回響いたあと、掻きむしるように僅かに乱れる。「In a half lit world…」彼女が囁く、親しい誰かを思わせる。ゆっくりとシンセサイザーが六回響く、滲む。「…I’m frightened to believe」ゆっくりとシンセサイザーが四回響いたあと、掻きむしるように僅かに乱れる。

(始点。空間、真っ白い朝を形成する。シンセサイザーは世界を削げ落とし、または溶かして、聞き手を深々と沈ませる。沈んだ先は白い闇。彼女は歌うことで囁く。耳元で死を囁く彼女は親しい者のように存在感を感じさせない。彼女は囁くことで接近する。心へと忍び寄ってくる。真っ白い朝を形成する。)

Part B (12秒間)
「But I must try…」彼女は語尾を伸ばして憂う。鳴り始めたギターは熱のない感傷に灼け、歪む。「If I stumble if I fall」彼女の憂いは嘆きに変わる。ギターは色もなく灼けて捩れる。

(転換点。急速に流れが収束し、膨張への予感に灼けていく。白けていく。シンセサイザーのリズムは聞き手を深々と沈ませ、ギターの歪みが聞き手を捩れさせ、耳元で囁く彼女の憂いは嘆きへと変わる。…真っ白い朝が霧散する。)

Part C (17秒間)
「I’m reaching out in this」彼女は悲鳴のように囁きながら叫ぶ。嘆きは透き通った架空の空洞を形成し、聞き手は自らの内側に真っ黒い異物を見つけてしまう。「mourning air, ohh」彼女の嘆きは憂いへと変わり、またフラットに冷めていく。……そして聞き手は体温を奪われたことに気づく。

(極限点。彼女の透き通った歌声は聞き手の内側に入り込む。そしてその空虚な歌声は聞き手の内側を空洞にする。彼女の歌声は聞き手の内的な独白となって響いて、聞き手は自らの中に真っ黒な異物を発見する。…熱が白けて聞き手は奪われたことに気づく。内なる異物に気づいたまま、空洞は再び真っ白な朝を形成する。その朝の白い闇のイメージは破綻した架空の構造物である。)

Part A’  (25秒間)
「Have I…」彼女は囁く。退屈な焼き直し。「…got the strength to ask」破綻した朝のイメージを引きづりながら、伴奏は静かなJazzを描く。「Beyond the window…」彼女は囁く。なにも響かない。「…I feel this fear alone」伴奏は憂鬱で無味乾燥なJazzを続ける。「…Until we have」彼女は軽やかに語尾を流す。

(Part Aの焼き直しにドラムとギターが付随して陰鬱なJazzを描く。強度もなく、展開もなく、退屈なメロディが繰り返される。…壊れた白い朝のなかで、内側の真っ黒な異物が身を捩る。灼けていく。)

Part B’  (12秒間)
「Total honesty…」彼女は憂うフリから嘆くフリへと態度を変える。伴奏は捩れて灼けていく。空間の一点へ収束。「If I tremble or fall」そして膨張へ。

(聞き手は彼女の淡々とした歌い方から憂いや嘆きが見せかけであったと気づく。内側の異物が身を捩らせる。繰り返されることで一層灼けていく。)

Part C’  (17秒間)
「I’m reaching out in this」嘆くフリをした透き通る囁きに、聞き手は再び内側への侵入を許し、熱を奪われ、心が空っぽになる。「mourning air, ohh」そして感情をなくしたことに気が付く。心がフラットに融解する。

(憂いもなく、嘆きもなく、繰り返される喪失に聞き手はただ心を空洞にくり抜かれる。感情をなくしたことに気が付く。朝の白い闇のイメージに続き、聞き手もまた破綻する。そしてまた朝の白い闇へ。)

Part A’’ (27秒間)
「Should I …」また繰り返される白い朝。「…feel a moment with you」終わらない退屈なJazz。「To softly whisper」消せない憂鬱。「I crave nothing else so much」心の不在。「Longing to reveal」…彼女は囁く。

(退屈さが身が捩れる程に繰り返される。聞き手とともに泥々に溶解した白い朝が灼けていく。)

Part B’’ (10秒間)
「Total honesty…」最高潮に達した聞き手の破綻が彼女の声に投影され、彼女の嘆きは本物になる。「I can feel your touch」救いを求めて空間が膨張する。

(空間の膨張と、彼女の嘆きと、聞き手の身の捩れが符合する。)

Part C’’ (16秒間)
「I’m reaching out in this」そして再び透き通る囁きに、聞き手の心は完全に空洞にくり抜かれる。「mourning air, ohh」もう修復不可能な自己の欠落、それ故に灼けていることに気が付く。

そして間奏…。(38秒間)

(身が悶えるような静寂。伴奏がゆらゆらと揺れて、淡い世界が形成され、聞き手は内側を満たされたかのように感じるが、同時に内側から聞こえていた彼女の歌声が初めて止んでいることに気が付く。満たされているのに、足りないと感じる。灼けている。聞き手は彼女の声を求める。)

Part C’’’ (16秒間)
「I’m reaching out in this」聞き手は彼女の声に奪われることで完全な空洞そのものになる。「mourning air, ohh」…彼女は歌い終えていなくなってしまったことに気付く。

後には退屈な伴奏だけがリフレインする。空洞となった聞き手を満たす声も世界もない。なにもかもが、なくなってしまったのだ。残響の僅かな浮遊感に包まれながら、離人症に身を捩る。自分が自分でなくなっていく。霞みゆく朝に、なにも響かない。救いようもなく退屈で……まだすこし灼けている。

 

 

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