平民化する社会

基本無料・アイテム課金制のゲームが社会を席巻している。Free-to-Play(F2P)と呼ばれるそのシステムはソーシャルゲームの主流となり、現在のゲーム業界内最大の市場規模を支えている。F2Pのユーザーは大きく2つに分けられる。ゲーム内で有料アイテムを購入しゲームを有利に進める群(富豪ユーザー)と、無料でプレイできる範囲内でゲームを楽しむ群(平民ユーザー)である。もう少し、2つのグループの違いを具体的に見てみよう。有料アイテムは主に「ガチャ」と呼ばれるアイテム抽選装置を動かすために購入される。ガチャを引くと新しいアイテムが手に入り、結果次第ではレアリティの高いものが含まれる。レアアイテムを求める富豪ユーザーは、抽選を引く権利を得るために料金を支払う。対して、平民ユーザーたちもガチャを引くことができる。そのために必要なアイテムは、ゲーム内で課せられる様々なミッションをこなすことでのみ、少しずつ手に入れることができる。たとえばログインボーナスがそのひとつだ。ゲームを開くだけで毎日アイテムを取得できるが、その量は購入した際と比べて非常に少ない。大雑把に言ってしまえば、富豪ユーザーと平民ユーザーの差は「ガチャを引ける回数」に最も大きく表れることになる。

スマホアプリ「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ」(デレステ)は、そのF2Pのシステムを踏まえて設計されたゲームのひとつだ。ユーザーは、楽曲に合わせて踊るCGのアイドルを背景にリズムゲームをプレイする。プレイは無料だがガチャもある。本作のガチャが排出するのはアイテムではなく100人を超えるアイドルである。なかでも最もレアリティが高い数人のアイドルは、能力値が高いのみならず個別衣装を着ているという特徴がある。基本的にアイドルたちは同じ衣装を着ているが、個別衣装を着るアイドルはゲーム画面内のビジュアルにおいて優位にある。さらに「アイドルマスター」シリーズの特徴である「アイドルをプロデュースする」ユーザーの視点が、個別衣装への欲望をさらに喚起する。ユーザーは、自分が応援するアイドルに晴れ着を着せたくなるのだ。

アイドルをプロデュースするというデレステの設定の中で、アイテムの消費によりアイドルを排出するガチャシステムは、ゲーム本来の世界観から大きく外れている。ガチャはゲーム内で「アイドルオーディション」と呼ばれているが、SNSを横断して情報を交換するユーザー間ではほぼ完全にシステムとしてしか認識されていない。ユーザーのプレイの質とは無関係に、運の良さだけが個別衣装の有無を決定するのだ。それにも関わらず、抽選の回数を増やすために富豪ユーザーは資金を投入する。それはまるでゲームを運営する企業の戦略をそっくりなぞっているようでもある。企業はゲームの利益を上げるために、有料アイテムを購入する層を増やすのではなく、無料でプレイする層を含めた分母を増やすことに注力する。テレビCMやネット広告で新規ユーザー獲得を目指すのである。富豪ユーザーもまた、レアリティが決まっているガチャに対して、お金を払って抽選の回数を増やすことで望ましい結果を得ようとしている。ゲーム内で展開される物語からかけ離れたところで、ゲームを運営するための資金が回収されている。

このようなエコシステムに対して、人数として多数派である平民ユーザーは影響をほとんど及ぼさない。だが、本当に彼らはただ将来的に富豪ユーザーになる可能性を持った人々でしかないのだろうか。

 

今年の10月末、日本のアイドルグループ「欅坂46」が着用したコンサート衣装が「ナチス・ドイツの制服を想起させる」という理由で、音楽会社がユダヤ系人権団体から抗議を受けた。ワシの紋章が付いた帽子やボタンが二列に並んだ黒いワンピースには、確かにナチスの軍服と類似したモチーフがちりばめられている。制作側が意図的にナチスのデザインを引用したかどうかは定かではない。だが、輪郭のぼやけた「なんとなく怖い」という感覚が先行したように思われる。件の衣装を着用したコンサートはハロウィーンをテーマにしていた。そこではショービジネスでご法度とされてきたナチスという固有名が削ぎ落されて、黒装束に身を包んだ「恐怖の集団」というモチーフのみが注目された。筆者は欅坂46を始めとするアイドルグループの歩みに詳しくないので、楽曲やメンバーを含めた総合的な文脈に今回の出来ごとを位置づけることはできない。ただ、グループのデビューシングル「サイレントマジョリティー」における衣装が世界各国の軍服を基調としたデザインであったことは付け加えておきたい。制作側は、従来のアイドル衣装と一線を画したデザインが注目されたデビュー時の手法を踏襲したのだろう。そこにハロウィーンという条件が加わった結果、ナチスという巨大な固有名に接続してしまったことをコンサート会場の外で知ることとなった。

アイドルは消費者の欲望に最も火をつけやすい方法で飾られる。衣装はその最たるものだ。

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